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ここはマスコミや警察がごったがえしの事件現場。斉藤というレポーターがカメラに向かって話している横で、男と女が話をしていた。
「やあ、田辺ちゃ~ん。いや~最近物騒だね~」
陽気な声で男が言って、両手を広げながら女にハグしようと接近する。
田辺と呼ばれた女は、抱きつかれる瞬間ひらりと男をかわして、冷静な声で答えた。
「ええ、そうね。今回もまだ手がかりらしいものはみつかってないわ。残念だけど私から言えることは何もないわよ、四条院さん」
「うははっ、そんな邪険に扱わんで下さいよ~。人と人の触れあいってすごく大切なんですよ~?」
だらしなく伸びた髪をポリポリかきながら、四条院と呼ばれた男は軽薄な笑顔を浮かべる。
「あなたとだけは絶対にお断りよ」
女――田辺杏子――は凍るような目つきで男を睨んだ。
「ひでぇ。俺が寂しさで死んだらあなたの責任だぞ~」
杏子に睨まれながらも男――四条院司査――は飄々とした態度を崩さない。
「どうぞご勝手に。私はあなたの生死なんて興味もないわ」
刑事である杏子は、ショートの髪を揺らして無愛想に答えた。
フリーライターの四条院は、眉間をひくつかせながらタバコをくわえる。
「相変わらずこの女め~……いつか目にもの見せてくれるわ~――しっかしほんと、いつにもまして酷いことしやがるなぁ……」
そう言って四条院は地面の血痕を見つめた。
「四条院さん、心の声が口に出ちゃってるわよ。まぁ、そんな事はどうでもいいのだけど……ええ、そうね。犯行からしておそらく同一犯ね。犯人は単独ではありえないはずだけど……」
同じように杏子は血痕を見た。
四条院は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべてから、声のトーンを落として言う。
「ああ、こんなの一人でどうやってできるんだって話だもんな。だが複数でもこんなことそうそうできるもんじゃねーぞ。悪魔の仕業、だったりな……」
そして2人して木の頂上を見つめる。頂上には20メートルはあろうかという大木。その頂点には――皮がはがされ、目玉と歯のない人間の顔らしきものが――刺さっていた。
言葉のないまま2人がソレを見つめていると、後ろから刑事達の声が聞こえた。
「写真はもういいな! だったら早く降ろそう!」
「おい! 早くなんか道具持ってこいーッ!」
怒号が飛び交う中、2人の元に1人の刑事が手を振って駆け寄って来た。
「田辺さーんっ!」
若い青年だ。杏子も若いが、その青年はまだ学生然とした雰囲気がある。
「ああ、服部クン。何か分かったの?」
杏子は駆け寄ってきた若い刑事に尋ねた。どうやら相棒のようである。
「ええ、それなんですが……」
服部と呼ばれた刑事は言葉を濁して四条院の顔を伺った。
「ああ、んじゃ俺はこの辺で失礼するよ……」
力なく手を振って、四条院は背中を向けこの場を立ち去った。
河川敷は未だ、がやがやがや……と、暫く周囲の騒乱が鎮まる気配はない。
だけどこの光景も、切り取られた日常の、ごく当たり前の1シーンなのだ。