エクスドリーム(完結)

奇書、奇書、奇書。

------------------------------別世界---------------------------------------

「アニメの世界に行く方法(AKIBA賞応募)」もよろしくお願いします
http://blog.livedoor.jp/hagedaruma-anime/

ホームページはこちら
http://ooyakenovel.web.fc2.com/

 PM ; 1:24


 ここはマスコミや警察がごったがえしの事件現場。斉藤というレポーターがカメラに向かって話している横で、男と女が話をしていた。
 
「やあ、田辺ちゃ~ん。いや~最近物騒だね~」

 陽気な声で男が言って、両手を広げながら女にハグしようと接近する。
 田辺と呼ばれた女は、抱きつかれる瞬間ひらりと男をかわして、冷静な声で答えた。

「ええ、そうね。今回もまだ手がかりらしいものはみつかってないわ。残念だけど私から言えることは何もないわよ、四条院さん」

「うははっ、そんな邪険に扱わんで下さいよ~。人と人の触れあいってすごく大切なんですよ~?」

 だらしなく伸びた髪をポリポリかきながら、四条院と呼ばれた男は軽薄な笑顔を浮かべる。

「あなたとだけは絶対にお断りよ」

 女――田辺杏子――は凍るような目つきで男を睨んだ。

「ひでぇ。俺が寂しさで死んだらあなたの責任だぞ~」

 杏子に睨まれながらも男――四条院司査――は飄々とした態度を崩さない。

「どうぞご勝手に。私はあなたの生死なんて興味もないわ」

 刑事である杏子は、ショートの髪を揺らして無愛想に答えた。
 フリーライターの四条院は、眉間をひくつかせながらタバコをくわえる。

「相変わらずこの女め~……いつか目にもの見せてくれるわ~――しっかしほんと、いつにもまして酷いことしやがるなぁ……」

 そう言って四条院は地面の血痕を見つめた。

「四条院さん、心の声が口に出ちゃってるわよ。まぁ、そんな事はどうでもいいのだけど……ええ、そうね。犯行からしておそらく同一犯ね。犯人は単独ではありえないはずだけど……」

 同じように杏子は血痕を見た。
 四条院は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべてから、声のトーンを落として言う。

「ああ、こんなの一人でどうやってできるんだって話だもんな。だが複数でもこんなことそうそうできるもんじゃねーぞ。悪魔の仕業、だったりな……」

 そして2人して木の頂上を見つめる。頂上には20メートルはあろうかという大木。その頂点には――皮がはがされ、目玉と歯のない人間の顔らしきものが――刺さっていた。
 言葉のないまま2人がソレを見つめていると、後ろから刑事達の声が聞こえた。

「写真はもういいな! だったら早く降ろそう!」
「おい! 早くなんか道具持ってこいーッ!」

 怒号が飛び交う中、2人の元に1人の刑事が手を振って駆け寄って来た。

「田辺さーんっ!」

 若い青年だ。杏子も若いが、その青年はまだ学生然とした雰囲気がある。

「ああ、服部クン。何か分かったの?」

 杏子は駆け寄ってきた若い刑事に尋ねた。どうやら相棒のようである。

「ええ、それなんですが……」

 服部と呼ばれた刑事は言葉を濁して四条院の顔を伺った。

「ああ、んじゃ俺はこの辺で失礼するよ……」

 力なく手を振って、四条院は背中を向けこの場を立ち去った。
 河川敷は未だ、がやがやがや……と、暫く周囲の騒乱が鎮まる気配はない。
 だけどこの光景も、切り取られた日常の、ごく当たり前の1シーンなのだ。

 プロローグ

 ――とあるマンションの一室である。電気も付いていない、暗いリビングの中、ソファーに座り呆然とTVを観ている少年の後ろ姿があった。
 TVからはニュースキャスターの声が聞こえてくる。
「まさに歴史に残る選挙戦ですよ! 全くの無名だった徳倉候補、ここでも圧勝です」と興奮した女性キャスターの声。

「もうこれは決まりでしょう。選挙前は桂候補が大統領確実と言われていましたが、いや~奇跡ってあるんですね~」と、解説の男も声の調子を上げて答える。

 少年は虚ろな顔をTVに向けている。ぼんやり半分開いた瞳に、モニタの光がチカチカ映っていた。

 ――少年の名前は秋涼在久(あきすずあるく)。

 世界は素晴らしいっていう人間とつまらないっていう人間がいる。どっちが本当なのかは分からないけど、彼にとっては後者だった。毎日が味気なかった。
 
 世界にとって自分は取るに足らない存在。必要じゃない存在。だから彼も世界を見放した。そして、世界の秘密に気が付いた。それが――秋涼だった。

 TVでは尚もニュースが延々と流れていく。

「えーと、映像の途中ですが今緊急のニュースが入りました」と、女性の声が聞こえる。

 続いて男性が言った。

「つい先ほど入った情報によりますと、本日未明また新奥町で殺人事件が発生した模様です! 現場に斉藤さんがいます、斉藤さーんっ?」

 そして現場に映像が切り替わり、マイクを持った斉藤さんらしき人が話し始めた。
 
「はい。こちら現場の斉藤です。今日の早朝6時頃近所に住む男性が、三奈徒川の河川敷で犬の散歩中に大量の血液が地面に流れているのを発見し、警察に通報した模様。その後警察の調査により、血が流れている元を探ったところ河川敷にある木の頂上に人間のものと思われる頭部を発見したということです。損傷はとても激しく、性別は不明ということです。DNA鑑定で身元を表すと発表されており、このあと午後3時頃から記者会見が行われるとのことで……」
 
 また猟奇殺人か……と秋涼は鼻で笑って眠りにつくことにした。そうだ、夢と現実が入れ替わってしまったこの世界では別段珍しい事でもない。非日常こそが日常で、日常こそが非日常なのだ。だから、さっさと眠って現実に帰ろう……そして秋涼に日常が訪れる。

   第1話 「エクスデス」



「在久――お前はもう、オレ達の仲間じゃない」
 
 とある廃屋の中。一人の男の声が響いた。
 
「な、何を言ってるんだよ……。だって俺達親友じゃないか……亮一」
 
 在久と呼ばれたもう一つの声は、弱々しい掠れたものだった。
 在久と亮一――。今、この場所には2人の男がいた。それ以外に誰の気配もない。
 
「いいや……残念だがそれは違う。お前はオレ達を裏切った」
 
 怒気を含んだ、落ち着いた声で語る亮一と呼ばれた男。
 
「違うッ。違うんだッ! 俺はハメられたんだ! これは罠なんだ!」
 
 一方。在久の声には余裕がなく、息も乱れていた。
 
「罠か……ふっ、なるほど面白い。オレはな……これ以上お前の嘘は聞きたくないんだ。いいかげんにしてくれ……ここから出て行ってくれ。でないと……オレがお前を殺す」 
「な……なんでなんだよ! だって俺達は親友で、そしてこの世界を救う仲間じゃないか! なんで信じてくれないんだよ! 世界と取り戻そうって約束したじゃないか!」
 
 責め立てられている在久の声は説破詰まっていて、今にも泣き出しそうだった。
 
「そうだよ、世界を救うんだよ……だからオレはお前を許すわけにはいかないのだ」
 
 亮一の声はあくまで冷酷だった。
 
「そんな……俺達あんなに楽しくやってきたのに……。みんなと過ごすこの世界だって悪くないって思えてきたのに……」
「それがいけないんだよ……なら、仕方がない。オレがこの手でお前の夢を終わらせてやろう……それが親友に対するせめてもの情けだ。在久」
「そ、そんな……俺は」
 
 少年は後ずさるようにしてその場を離れていく。もう一人の少年は威圧するようにじっと立ち尽くしたまま、動かない。
 そして少年――在久はそのままこの場から、彼から、仲間達から、逃げるように去っていった。
 その瞬間――在久は全てを失った。

↑このページのトップヘ