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 いつものように秋涼は昼休みになると、校舎の屋上で大宮優美と邂逅を果たした。
 秋涼が屋上に着いたとき、既に大宮優美の姿があった。
 優美は秋涼に背を向けるようにして街の景色を眺めている。
 真昼の太陽が小さな少女を照らし、その姿は白くぼやけて儚げな存在に見えた。
 しばらく見ていると、なんだか秋涼は不安になって優美の背中に声をかけた。

「よっ」

 できるだけ元気で、爽やかな声をこころがけたつもりだった。
 優美はゆっくり振り返った。

「在久……」

 秋涼はその顔をみて、儚げに微笑んだ。



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 丁度その頃――。



 生徒会室の中に一人の人物がいた。桂スミレ。パイプ椅子に座って、無表情に窓の外を見つめているスミレ。だけど、口元だけがもごもごと動いていた。聞き取れないけれど――スミレは何かぼそぼそと呟いているようだった。





 徳倉薫は薄暗い旧校舎の渡り廊下に一人立っていた。彼は己が右手を見つめていた。
「そうだね……僕が……止めなくては……ホールウィンド計画……か」
 彼は一人、澄んだ声で小さく言った。





 秋涼のクラスの教室では、正雀渚が自分の机に座っていて、お弁当を机の上に置いて、それに手を付けようともせずに静かに目を閉じていた。クラスメイト達は誰も彼女を気にしていなかった。





 秋涼章助――。彼は秋涼在久の父親であり、現在この世の中から姿を消している最重要指名手配人。彼は狙われていた。だから彼は身を潜めていた。この建物の中が現在の彼の世界だった。
 しかし――今、彼の世界に侵入しようとする者がいた。
 部屋の扉を破って、一人の若い女性刑事が彼の元に現れた。





 どこか分からない、薄暗い部屋の中でパソコンを一生懸命打ってる老人がいた。名前は牧田十三。パソコンのかたわらには、『組織』の如月マイアが持っていたのと同じ、危険人物名が載ったリストがあった。老人はパソコンのモニターから一瞬目を離して、それを見て――。
 不気味に笑った。





 そして――一人の女が日本の地に降り立った。


 
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